英語情報を発信する!
と意気込んだものの、あまり英語情報を発信していない当ブログですが、久しぶりに面白い本を読みました。
それがこの本、“翻訳地獄へようこそ”です。
会社とかで疲れているし?
めんどくさい英語の本とか読みたく無いし?
そう思っていたのですが、ヴォイニッチ手稿のような面白い表紙にも惹かれて読んでみました。
結果、内容は予想と全然違っていました。
英語だらけかと思っていましたが、ほとんどが日本語。
そして筆者が“ここがおかしい翻訳英語!”と感じているストーリーをたくさんの例で話してくれます。
(海外小説を読んでいると、”あぁ翻訳の本を読んでいるんだな”って感じの文章も多いですよね。)
英語の本というより、英語翻訳を題材にしたエッセイみたいな感じでした。
この面白さを是非あなたにも共有をしたく緊急レビューです!
- 英語は完璧じゃないけど上級者になった。今更勉強でやることないわ、という方
- 自動翻訳が良くなるし、自分で英語を勉強する意味に悩んでいる、という方
- 単純に翻訳に興味がある方
- 映画の字幕にはいつも一言言いたいんだ、という方(たまに私もあります笑)
一見長く、真面目な英語の本に見えてしまいますが、実は雑誌の連載をまとめた本です。
そのため各ストーリーは非常にコンパクトで空き時間に簡単に読むことができますよ。
翻訳地獄へようこそのレビュー
いきなりですが、
“古池や 蛙(かわず)飛びこむ 水の音”
という松尾芭蕉の有名な俳句がありますよね。
あなたが外国人にこの句を紹介するとき、どうやって翻訳しますか。
old pond / a flog jumped in / water sounds
とかそんな感じでしょうか?
*本書にも一例が書かれています。
いや、正直意味不明ですよね。
あなたが英訳された本を読む外国人だとして、松尾芭蕉という有名な人の句です、と言われても。
あっ、えっ、はい。
あ、そうなんですね?(意味不明だけど。)
くらいしか感想が出ないと思います。
翻訳の難しさをイメージをしやすいように日本語→英語の例を出しましたが、英語→日本語の翻訳でも同じような悩みがたくさんあります。
翻訳には単語だけではなく、文化、歴史、その地域の常識など多くの要素が必要とされており、それらが不足すると間違った訳や、日本語だけど意味不明な日本語、といったものが出来上がるんですね。
私もネタとしては大好きな戸田奈津子さんの誤訳集みたいなものもありますが、簡単な単語でも意味の間違いはかなり多く発生しています。
映画を字幕で見ていると、あれっ?と思うことはしばしばありますし、小説などでも意味がわかりにくい部分は大抵翻訳の力が足りていないところです。
翻訳地獄へようこそでは、よくある間違い、なぜ間違いが起こるのか、どう訳すのが良いのか、ということが語られています。
その一例として“nurse”という単語があります。
ナース=看護師・看護婦と言えばもはや日本語ですよね。
しかし、小説などでは“乳母・保母”という意味で使われていることも多くあります。
これは本書のなかで何度か出てくる例で、よくある間違いの一つです。
日本人としては”乳母”という存在自体の馴染みが薄いですから、つい”ナース=看護婦”という慣れた表現に引っ張られてしまうのでしょうね。
“子供達を預かる看護師”と訳すと病院の景色が浮かびますが、”子供達を預かる乳母”であれば家庭の光景ですよね。
簡単で難しい翻訳の妙技
もう一つ面白かった例をご紹介します。
ある英語の小説において、日本人の男が
“You certainly have a way with the young ladies. I envy you.” he said, in the direct of Kyoto.
と発言したそうです。
問題は”in the direct of Kyoto = 京都弁で”という部分です。
日本語に訳すのだから当然京都弁で翻訳をしたい。
それではどうするのか?
“若い娘にえらいもてはりますなぁ。うらやましいもんですわ。”
と関西風に訳してもこれは京都弁にはならないそうです。
筆者によると、私はあなたをうらやましい、を京都弁でどう言うのかと考えるのではなく、京都人はこう言うシチュエーションではどんな言葉で表現するのかを考えるのが大事と言うことです。
本書に協力した京都人によると、
I envy youは、”うらやましいもんですわ”ではなく、
“あやかりたいもんですわ”
となるそうです。
確かに。確かに京都っぽい!
envy = あやかる なんて用法は辞書には載っていない訳で、表面的な言葉だけでなく、心や生活まで踏み込む翻訳の面白さの一例ですね。
翻訳地獄へようこその素晴らしい点
最後に本書の素晴らしい点をお伝えします。
一言で言うとそれは気軽さです。
- 居酒屋で英語うんちくおじさんと話しているような感じ
- たくさんの例が提示され、言いたいことがわかりやすい
- 長々とした英文引用が無く、英語力がない人にも読みやすい
- 元々が雑誌連載なので、ショートストーリーの集まりで気軽に読める
英語の勉強の本だから・・・と敬遠せず、
映画雑誌に連載されている、世の中の誤訳の理由を教えてくれる本
くらいの気軽な気分で手に取ってほしいです。
とはいえ、この本は英語中級〜上級レベルの方が一番楽しめるのも事実だと思います。
その理由は言語翻訳の難しさを実感できるからです。
簡単な言葉でも言い換えるのって意外と難しいですよね。
外国人が日常的に言う
“I love you, honey”
なんて言葉も日本語に翻訳すると急に胡散臭くなってしまいます。
言葉って難しい。言葉って面白い。
翻訳によって失われてしまうものがあり、それを出来るだけ再現しようと努力している人がいる。
そんな翻訳家の苦労、やりがいを垣間見ることができます。
同時に、翻訳された英語の世界だけではなく、是非とも生の英語の世界を味わって欲しいです。
そこには翻訳で表せないニュアンス、文化、匂い、いろいろなものが絡まっています。
英語が話せるって、まさに別の世界を楽しむという感じですよ。